• 定年男子のランとマネー

原田マハ著「本日はお日柄もよく」は作者が絵画美術小説(?)で活躍する直前に発表された小説です。この小説の主題は、スピーチによって「言葉を操る」ことが、どれだけ人の心を動かすことができるか・・なのですが、これを政権交代をかけた衆議院選挙を舞台にして描いたものです。

小説の中には、冒頭の「スピーチの極意10箇条」から、下手なスピーチ、上手いスピーチ、そして心を打つスピーチの例が、様々な場面設定の中で提示されます。

もちろんストーリーも面白くて、現在の絵画美術を題材にした小説を得意とする作者の腕の冴えが遺憾なく発揮されています。

この小説を読んでいて、僕の記憶に蘇ってきたスピーチは、学生の頃に聴いたジョン・F・ケネディ大統領の演説です。確か「ニューフロンティア」という題名だったと思います。

この演説で、ケネディは多くの人たちに感動を与えていた記憶がありました。

調べてみると、「ニューフロンティア」演説は、1960年にケネディが民主党大統領候補者の指名を受けた、ロスアンゼルスでの党大会でなされたもので、有名なことばとして、

アメリカ大陸の西海岸に立ち、ケネディは「アメリカ西部に面して、かつてここはフロンティアの終点だった。・・(中略)・・我々が求めようと求めまいと、新しいフロンティアはここにある」

と支援者に語り掛けました。

ケネディは、その後の大統領選挙で共和党候補であるリチャード・ニクソンを破って大統領になるのですが、その時に「・・アメリカ人同朋よ、祖国があなたに何をしてくれるかを尋ねるな、あなたが祖国に何ができるかを尋ねよ」という演説を行いました。

ケネディの演説を2つ読んでみて、当時の世相(米ソ冷戦や宇宙開発競争でアメリカがソ連の後塵を拝していたことなど)が思い出されました。

これに触発されて、過去のスピーチをいくつか探して読んでみました。

1つは、1997年にロンドンのウエストミンスター大寺院で行われたダイアナ元皇太子妃葬儀の時のスペンサー伯爵の追悼スピーチです。

スペンサー伯爵は、ダイアナ元皇太子妃の弟にあたり、スピーチではダイアナを追いかけまわして死に追いやったパパラッチを非難するとともに、姉の息子たち(ウイリアム王子・ハリー王子)の将来は、自分たち「血族」が守るという意味のことを述べています。

伯爵本人はのちのインタビューで「攻撃的な言葉は使っていない」と言っていますが、「血族」という言葉はどうしてもエリザベス女王のダイアナへの対応を思い出させますね。

ネット検索すると、エリザベス女王はダイアナの遺体は、ウインザー家(イギリス王室)ではなくて、スペンサー家(ダイアナの生家)が引き取るべきだといったのですが、チャールズ皇太子が説得して準国葬にしたと書いてありました。

考えてみると、女王の考えは正論なのですが、ダイアナへの国民感情を考慮すると政治的には不評を買うでしょうね。

想像するに、もしもダイアナの遺体受け取りを拒否すると、チャールズ皇太子が批判にさらされるし、たぶん彼も後ろめたかったのでしょうね。

スペンサー伯爵はダイアナの遺体を、イギリス北部のスペンサー家領地にある小さな湖に浮かぶ島に葬りました。ダイアナはようやくパパラッチの追跡から逃れることができたわけです。

エリザベス女王はダイアナの死から20年を経て、ダイアナの息子ハリー王子とメーガン妃の王室離脱という同じような局面に遭遇しています。

ダイアナの時に経験済みなので対応は早かったことと、メーガン妃への国民からの批判があることにも助けられていますが、やはりここでもエリザベス女王の態度への不満は存在するようです。

どうも、力を持っている高齢者というのは、一般人からは好意的には見られにくいような気がしますね。

2つ目は、1998年にロシアのエリツイン元大統領がセント・ペテルスブルグで行ったスピーチです。

先ほどのケネディ元大統領の演説の時は米ソ冷戦の最盛期でしたが、エリツイン元大統領は1990年初頭に崩壊したソビエト連邦の後を受けてロシアの初代大統領になった人です。

エリツインのあとは、プーチン、メドベージェフ、プーチンとプーチン体制が現在まで続いていますので、エリツインはソ連崩壊後のロシアを取りまとめ、プーチン現大統領に繋いだ人にあたります。

エリツインが退任の1年前である1998年に行ったスピーチは、一言で言えばロシアの過去の過ちを謝罪する内容でした。

具体的には、1918年に赤軍がロマノフ王朝の皇帝およびその一族を惨殺したことへの、国家としての公式の謝罪でした。

この謝罪がどのような歴史的意味を持つのかは、ソ連崩壊後に新生ロシアとして国家の再出発を図るときに避けて通れなかったのだろう・・という以外に僕にはよく分かりませんが、エリツイン元大統領としては病身を押してでも真実を述べる義務があると感じたのでしょうね。

スピーチは短いものですが、真摯な謝罪が感じられます。

エリツインは、まだ純朴な田舎のおじさんのイメージがあるのですが、後任のプーチンはとてもそんな生易しい感じではありませんね。

謝罪など間違ってもやりそうもありません。(笑)

いろいろなスピーチを読んでいると、過去の歴史の一コマが鮮やかに蘇ってくるようです。

老後の学び。老後の楽しみとしては、なかなかに良いものだと感じています。



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