• 定年男子のランとマネー

来年のことを言えば「鬼が笑う」、そもそも金融市場の先行きなど予測不能・・ということはよく承知していますが、米国株式市場の好調を見ていて。なんとなく違和感があるので

僭越ですが、金融市場で問題になりそうなことを、少し考えてみたいと思います。

私の基本的な認識は、2008年のリーマンショックで崩壊した金融市場が、中国をはじめとする各国政府・中央銀行の異常ともいえる資金供給の結果、市場が延命と膨張を続けて

今日に至っているというものです。

では、過剰な資金供給が生み出したリスクを、いくつか考えてみましょう。

<米銀の不良資産>

1990年に米国に赴任して担当した仕事は、商業用不動産(オフィスビルやショッピングモールなど)への融資の回収でした。

日本のバブルの勢いで貸し込んだ融資が、まとめて不良債権化したのです。

これらの融資の回収の目途をつけるまで、約6年半の間、米国に駐在することになりました。

幾つかのデータを見ると、現在の米銀の商業用不動産融資の実質的な不良債権化度合いは

私が駐在していた時をはるかに上回る酷さのようです。

米国の商業用不動産融資は、主幹事銀行が計画段階から入り込み、融資の開始とともに

仲間を募って巨額の融資を実行する仕組みです。

融資の期間は、通常5年から7年。

融資開始から2年程度で建物が完成して、デベロッパーが3年かけて物件の売却先を探します。

売却先は、長期投資家である生命保険会社や損害保険会社です。

もしも5年で売却できないときは、2年間年長しますが、デベロッパーにプレッシャーを

かける意味で融資の金利が上がります。

融資開始の5年後か7年後に物件が首尾よく売却できれば、売却金額から銀行は優先的に融資元本の返済を受けて、残金はデベロッパーの利益になります。

ところが、コロナ禍後の急激なインフレを抑えるための金利の高騰によって、不動産物件の空室率が上がるとともに資金収支が悪化し、それに伴って建物の評価価値が暴落し、たとえ買い手が現れても、物件の売却額が融資元本に届かなくなってしまいました。

つまり銀行は、物件を売却すれば巨額の損失を被ることになるのです。

(米銀の不動産融資は、基本的にノンリコース、つまり物件以外の担保や保証はありません)

聞くところによると、この事態に直面して、どうやら米銀は、融資返済条件の緩和を行っているらしいのです。

具体的には、返済満期の猶予や延長、資産査定の緩和などが考えられます。

これは、バブル崩壊初期に日本の銀行が行った対処法と同じで、市場が早く回復しなければ

不良債権が大きく増大する対応策と言えます。

一言で言えば、まさに「先延ばし」策でしかありません。

次に、同じく金利の上昇に伴って、保有する債券の価値が暴落して、巨額の含み損を抱えているようです。

つまり銀行は低金利の債券を大量に抱え込んでいるわけです。

こうして、保有債券の利率と貸出金利が低いので、銀行の預金金利は低いままです。

ところが、新たに発行される短期債券などは高金利なので、銀行預金は短期債券やMMFに

大量に流出します。

銀行のバランスシートを思い浮かべると、資産の部には相当額の不良債権と、大量の低金利を生む資産が存在し、負債の部の預金はどんどん無くなっていくことになります。

この事態によって、2023年にいくつかの中小銀行が破綻しましたが、FRB(連邦準備理事会)が、これらの銀行に多額の資金供給を行った為、破綻の連鎖は起こりませんでした。

FRBの臨時資金供給プログラムは25年3月に終了しますが、銀行の人たちは切に延長を願っているでしょうね。

トランプ政権は、どのように対処するでしょうか?

<FRBの含み損>

中央銀行であるFRBの資産構造も似たようなもので、大量の低金利資産が巨額の含み損を生んでいます。

債務超過と言っても良いでしょうね。

米国政府の公的債務残高は24年7月末で35兆ドル(5250兆円)を超えたようです。

「最も予測可能な危機」米政府債務が急増 35兆ドル超える

個人的には、全額の返済は不可能に思えます。

つまり米国債の信用低下(格付け引き下げ)の懸念を感じます。

<株式市場>

冒頭に申し上げた、好調な米国株式市場への違和感ですが、これだけ金利が高騰して、景気後退のシグナルも出始めているのに、株式市場は上昇を続けています。

何かあっても、これまでのように中央銀行が、巨額の資金供給をして助けてくれるだろうと

期待しているのでしょうか?

これまで申し上げたように、FRBも中央政府も、懐は火の車です。

FRBがどんどんドルを印刷すれば、インフレが再燃するでしょう。

公的債務残高がこれだけ積みあがってしまった状態で、米国債の発行にも限界があるという気がします。

来年1月に発足するトランプ政権は、なんとなくですが、バイデン政権から巨大な時限爆弾を譲り受けた印象です。

トランプ大統領は、前政権の非を攻撃するでしょうけれど、時限爆弾が爆発するようならば、自分自身で目の前の事態に対処せねばなりません。

トランプ大統領とパウエルFRB議長の関係など、2025年は注目するテーマが多い気がします。

勿論これは対岸の火事ではなくて、日本でも農林中金の巨額の債券損失の計上、政府の巨額の公的債務残高や長期の量的緩和に伴う日本銀行の課題は、山ほどあるのですから、来年は日米両国の金融・財政政策の動きに翻弄される1年になりそうな予感がします。

参考資料 「先送り・偽り経済」のゆくえ(重見吉徳) 〈プロの羅針盤〉フィデリティ・インスティテュート マクロストラテジスト – 日本経済新聞 2024/12/10


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