少し衝撃的なタイトルですが、これはビル・パーキンス著「Die with Zero」の書名を
日本語訳したものです。
著者はこの本を有名なアリとキリギリスの寓話から始めています。
夏の間遊び倒したキリギリスは、冬になって食糧がなくなり、蓄えもないので、アリに食べ物を恵んでもらおうとするが、断られて死んでしまう話です。
この結末は誰でも知っています。
苦しくても将来のために一生懸命働いて貯蓄していかないと、老後に困るよという教えです。
ここで著書の質問は、「ところでアリはどうなった?」です。
たくさんの食糧をため込んだアリは、老後はその食糧をすべて食べつくして死んだのでしょうか?
それとも翌年まで残して、年が明けると再び一生懸命働いて食糧を貯めたのでしょうか?
著者の疑問は「アリはいつになったら楽しく暮らすのだ?」です。
もう少し言えば、「苦しみだけあって、楽しさのない人生(アリ生?)はつまらなくないか?」
ということです。
「ゼロで死ぬ」というのは、自分の持っている資産は、自分の生きているうちに使いつくして、死ぬときはゼロで死のうという提言です。
もちろん、誰もがいつ死ぬかはわかりません。
したがって死ぬまでにいくらお金が必要かは正確にはわかりません。
介護費用に葬式代、それから子供や孫にいくらかは残してやりたい。
これは人情です。
著者は老後の不安や人情を無視してゼロで死のうと言っているわけではありません。
できるだけ冷静に計算して、介護費用プラス葬式代プラス若干の遺産を取り除けて
残ったお金を元気なうちに使ってしまおうと言っています。
この背景には、多くの人が老後に準備したお金のかなりの金額を使わないで死んでしまう、
または引退後から死ぬまでに資産が増え続ける事例が多いことが背景にあります。
死ぬまで使わないで貯めたお金は、言ってみれば「死に金」ではないのか?というのが著者の問いでしょう。
自分の人生を豊かにするために、お金は溜め込まないで、死ぬまでにもっと使うべきだという主張です。
ズバリ言って「経験」です。
ワクワクする楽しい経験、人的成長に必要な経験にお金を使うことを勧めています。
若いうちから経験にお金を使うことが何故重要かというと、
経験というものはお金と一緒で「複利」効果で効用が増大していくからです。
経験を少し身近な意味で捉えれば、旅行に行くこと、結婚して親になること、子育てすることなども、気持ちが豊かになる、人生に彩を添えるという経験になります。
仕事や生活(つまり人生)で必要な経験を積むことで、必要な経験が蓄積されていき、
結果的にお金がじぶんのところへ回ってきて富が蓄積されます。
その富をさらに使うことで、人生はどんどん豊かになっていくのです。
逆説的に聞こえますが、この考え方は一種の「引き寄せの法則」とも言えます。
お金を水のように流れるものとイメージすれば、水は流れている間は清冽ですが、
動かなくなり溜まってしまうと、藻が生えたりゴミが流れてきたりして
澱んで汚くなります。
このような澱んだお金を抱えたままで死ぬよりは、綺麗にほかに流してやって、
たとえ死ぬときに手元に無くても、豊富な経験と豊饒な思い出に包まれて
人生の最後を迎えるほうが「しあわせ持ち」な人生といえるでしょう。