会社員時代に時々「あの人は○○のプロだ」とか「あの人は社内の生き字引だ」と言われている人がいましたが、例外はあるにせよ、そういう人達が何かの専門家になって、その職業で生計を立てたという話はあまり聞きません。
プロとして自立している方々を見ていると、男女を問わず会社員時代の経験をもとにどこかの時点で専門的な勉強や資格取得をされてから、独立して仕事をされている方が多いように思います。
例えば経理や総務などの比較的裏方の実務を長く担当しながら、税理士や社会保険労務士などの資格を取得してから開業する方を多くお見受けします。
何故会社員がそのままプロになれないかと考えてみると、一つは職種をまたがっていろいろな仕事を担当する人事異動が原因の一つではないかと思います。
ある方が「50歳で左遷されて子会社へ出向したおかげで、定年まで10年間同じ業務を担当して,定年対象後に始めた今の仕事につながる業務を深堀りできたし人脈も作れた」という意味のことを言われていました。
プロになる、または仕事として認められる経験には、一定期間の習熟が必要ということなのでしょうね。
次に営業など担当する方々は、表面的な研修はあっても専門的な訓練を受けることなく、経験による工夫や先輩方の見様見真似で自分のやり方を身に着けることが多いので、どうしても仕事の再現性やほかの職場での汎用性に欠けるのではないかと考えます。
プロとしての仕事には、品質のばらつきが許されません。
ある時は100点を超えるような出来栄えの成果を示せるが、別の時はまるでダメということでは、仕事を発注する人は怖くて頼めません。
経験だけでやっていると仕事の再現性が不十分になりがちですし、見様見真似で特定の範囲だけ通用する仕事のやり方では、どこでも安定的な成果をあげ続けるというプロのミッションは果たせません。
最後に、自分が個人事業主の端くれになってみて会社員時代と一番違うのは、やる仕事には範囲も限度もないということです。
例えばFP相談であれば、お客様の悩みやご要望を考える(お客様はすべての課題を一覧で提示してくれるわけではありませんので 笑)ことから始めて、自分が提案できることを、できるだけ範囲を広げて検討した後で、具体的な提案の仕方を(裏付けを取りながら)組み立てる・・というプロセスですね。
もちろん、コンプライアンスは最も注意します。
個人的な経験では、これはかつて大学院で修士論文を書いた時の作業に似ています。
今の感覚は、お客様ごとに小論文を書いているような感じです。
論文と違うのは、お客様ごとにテーマが微妙に違うので、それぞれに提案の仕方が異なることと、反応が早いことですね。
論文だと、査読や学内審査が終わるまで合格したのかよくわかりません。
もう一つ自分の話をすると、私は現在アルバイトで開発ベンチャーの管理部にも在籍しているのですが、違いを一番感じるのは休日ですね。
ベンチャーの経営者は休日を気にしないで働きますが、一般社員は休日は休む・・というか絶対にメールは見ないと言っています。
私のような駆け出しの自営業者はお客様の依頼への対応や自分の勉強(セミナーなどは土日にあることが多いので)は平日も週末も関係なくやります。
他の自営の方々を見ていると、明確なポリシーを掲げる方は別にして、大部分の方は必要なら土日も関係なく仕事や学習の時間をとっているようです。
経済コラムニストの大江英樹さんは、会社員と自営業の違いについて
「会社員は不満はあるが不安はない」(人間関係はややこしいが、給料は毎月入金される→土日は休み)
「自営業は不安はあるが不満はない」(収入は不安定だが→土日も働く、自分が決めたので納得している)
と言われていました。
(大江英樹著「定年前 しなくていい5つのこと」64ページ)
「不満」と「不安」の間には深くて広い谷が広がっているようですね。
でも最近は大手企業でもコロナ禍で巨額の赤字を計上する会社もあれば、業績は悪くないが早期退職者を募集する会社も出てきています。
もしかしたら会社員にとって、これからは不満に重ねて不安が増大するという、少々生きにくい時代になる可能性がありますね。