原田マハ著「暗幕のゲルニカ」を読了しました。
以前は、司馬遼太郎や藤沢周平、隆慶一郎の時代小説や大沢在昌のハードボイルドなどを読んでいましたが、
最近は自分が知らない名前の作家の作品を読むようにしています。
伊坂幸太郎、木下昌輝、佐々木丸美などです。
原田マハは珍しい名前なので知ってはいましたが、読むのは今回が初めてです。
美術に造詣が深い作家ですね。
この作品を選んだ理由は「ゲルニカ」です。
僕は1982年4月に転勤でスペインに赴任したのですが、
ゲルニカがアメリカからスペインにあるプラド美術館別館に帰還したのは前年の1981年9月らしく
仕事に少し慣れたころからゲルニカを見に足繁く通いました。
僕がゲルニカを含むプラド美術館に通った主な理由は、
仕事で日本からやってくるお客様を案内することが多かったからですので、
絵画に造詣が深かったというわけではありません。
でも絵を見るのは好きだったので、プラド美術館にあるグレコ、ベラスケス、ゴヤなどの絵は飽きずに見て回りました。
ゲルニカを初めて見たときのことはよく覚えています。
巨大な防弾ガラスの向こうにモノクロームの大きな絵が展示されていました。
訴えているものは反戦ですが、見た感じは悲しい絵でしたね。
悲痛な叫びが伝わってきました。
その後、バルセロナのピカソ美術館やヨーロッパにあるピカソの絵を見る機会がありましたが、
やはりゲルニカの印象は一番強かったですね。
原田マハのこの小説は「アート・サスペンス」です。
巻末の参考文献一覧を見ただけでも、大量の資料に基づいてフィクションを組み上げたことが分かります。
他の作家では、ダン・ブラウンの諸作(ダ・ビンチ・コード、ロスト・シンボル、インフェルノなど)
から受けたものと類似の印象を受けました。
小説の粗筋や展開に興味のある方にはお読み頂くとして(文庫本で500ページの長編です 笑)、
フランコ将軍がスペインを制圧・統治した時代に、
世界的名声を確立していた反戦の画家ピカソを取り巻く人たちの様子と、
9.11テロをへて「テロとの戦い」を開始した2000年代初頭のアメリカの様子が並行して描かれています。
2000年代初頭はアメリカが国力を回復し、現在のアメリカ経済を牽引しているFANGと呼ばれるIT企業群が力を伸ばしてきた時期です。
この時期にアメリカは大きな変化を遂げたと思うのですが、
その時期の一面をゲルニカという絵画を通して見事に描いている小説という気がしました。
小説は架空のお話を作って読者を楽しませるための仕事だと思うのですが、この作品で作者は十分に楽しませてくれました。