10月21日に日本FP協会奈良支部の研修会に参加しました。
第二部の講師は有名FPの藤川太さんです。
藤川さんの講演は一度聞いたことがあります。
過去20年間にわたり有名なFPはみんな同じで、あまり新顔が現れていないという内容でした。
FPのマーケットは拡大していないという趣旨だったと思います。
(FPで食っていくのは大変だという意味です。笑)
藤川さんは、もともとは理科系のエンジニア出身で、自動車会社のエンジン設計関係の仕事を5年した後でFPになったそうです。
経歴が金融と関係ないのでお客も来ず、困って特徴を出すためにエコノミスト誌に書いたのが、生命保険の保険料計算の解明記事でした。
これが反響を呼んで、FPとして自分の分野を持てたとのお話でした。
得意技は大切ですね。
まず始めに日本の人口の推移を見てみると、総人口は減少を続けます。
これとともに生産人口は大幅に減り続け、老年人口が増えていきます。
つまり社会保険の保険料を払う人が減って、受け取る人が増えていくわけです。
今のところ、支払人口の減少と保険料の値上げが相殺して、国家の保険料収入は変わりませんが、社会保険の給付額自体は大幅に増えているので、不足分の財源を国債の発行によって賄っています。
現在の国債発行残高は880兆円くらいで、そのうち430兆円を日銀が保有しています。
市中にあるのは半分くらいです。
発行額の半分しか流通していないマーケットは歪ですね。
藤川さんは、現在の日本を「手取り収入が増えにくい時代」と呼びます。
手取り収入=給与―社会保険料(↑)―税金(↑)
社会保険料には厚生年金保険料、健康保険料、介護保険料などが含まれます。
税金には所得税、住民税が含まれます。(生活する上では消費税もありますね)
社会保険料や税金が増えても、それ以上に給与が増えてくれれば良いのですが、
1997年ごろをピークにして一般的に給与水準は下降傾向です。
一番お金が必要な40代から50代にかけての給与の伸びが低いので、その間は家計が債務超過です。
退職金で一息ついても、住宅ローンが残ったりすると老後資金が不足して破綻するパターンになりますね。
手取り収入の減少を現わしているのが、世帯払込保険料の推移です。
1997年に年間67.6万円だったのが、2015年には38.5万円まで減少しています。
藤川さんは、若い人が払っている保険料はもっと少ないだろうと推測します。
ここで、破綻を避けるために必要なのが「家計における固定費の見直し」です。
藤川さんは、食費、レジャー費、被服費などの節約には否定的です。
それよりも住居費、住宅ローン、駐車場代、保険料、水道光熱費、通信費などの固定費の削減を考えるべきだというご意見です。
(固定費の削減には専門家のアドバイスが有効で、ここがFPの出番です)
固定費見直しの有力候補の一つが生命保険料です。
2018年に標準生命表が11年ぶりに改訂されるので、保険料に大きな変化がありそうです。
生命保険料の計算根拠を理解しておくと、お客様の保険料見直し相談に対して、根拠を持って有用なアドバイスができます。
使用する原理は2つだけです。
大数の法則=試行回数が多いほど一定の確率に収束していく。
収支相当の法則=契約者全体が払い込む保険料の総額と、保険会社が受取人全体に支払う保険金の総額とが等しくなる。
藤川さんの試算によれば、保険金額3000万円として
30歳から10年ごと更新で60歳満期の定期保険だと、保険料総額は約427万円
30歳から60歳まで更新無しの定期保険なら、保険料総額は約363万円
30歳から60歳払い込み満了の終身保険なら、保険料総額は約2204万円
30歳から60歳までの養老保険なら、保険料総額は約2803万円
となります。(生命保険会社の利益は入っていないと思います)
生命保険会社の保険料は、大まかに言って保険金として支払われる純保険料と、保険会社の事業費用に当てられる付加保険料から成り立っています。
保険会社は予定利率を低めに見たり(利差益)、予定死亡率を高めに設定したり(死差益)、予定事業費率を高めに見て(費差益)利益を上げますが、保険料のコスト計算が自分でできれば、保険会社の利益部分が大きすぎる保険を回避できるかもしれませんね。
具体的な計算方法をご紹介します。
(問)1年間に1%の人が亡くなると予想、亡くなった方に保険金100万円が支払われます。年間保険料はいくらなら収支が釣り合うでしょうか?経費は一人当たり1000円です。
(解)100人いるとして1人が亡くなれば100万円。100人で割れば1人当たり1万円。経費を加えて11000円。
(問)簡易生命表を使って30歳男性の保険金100万円当たりの年間純保険料を計算してください。予定利率は0.25%で付加保険料は計算しません。
(解)保険料×年始生存者数×期始払原価率
P円×99000人×1.0000=99000×P円
保険金×死亡者数×期央払原価率
100万円×57人×0.998752=56,928,864円
収支相当の原則より
99000×P円=56,928,864円
P=575円
因みに、保険金額が3000万円なら純保険料は17250円(年額)ですね。
(問)30歳男性が保険金100万円、保険期間10年の定期保険に加入する場合の年間純保険料を計算しなさい。予定利率は0.25%で付加保険料は計算しません。
(解)計算がややこしいので、答えだけ書きます。
P=706円(年間)です。
(問)上記の例で養老保険に加入する場合の年間純保険料を計算しなさい。
(解)この場合は定期保険料+生存保険料で考えます。
答えはP=98、923円です。
定期保険と養老保険ではコストは全く違いますね。
このほかに、保険会社の事業費用である付加保険料の計算や先進医療の保険料コストについてもお話がありましたが、とても有益な講演でした。
最後に生命保険の見直しについてです。
尚、生命保険については、まず第一に自分や家族にとって生命保険が必要なのかを考えて、
必要という結論ならば、コストの見直しを行って頂きたいと思います。
2017年4月から予定利率は0.25%に下がりました。
2018年からは標準生命表が改訂され、予定死亡率が下がります。
これについては、こんな風に考えています。
時々「お宝保険」という言葉を聞きますが、これは平成の初めころの予定利率が5%超あったころの保険です。
このころの保険は貯蓄性が高く、年金保険、養老保険、終身保険などで契約継続中のものがあれば「お宝保険」です。見直さないほうが良いでしょうね。
しかし、寿命が延びて予定死亡率が下がると、掛け捨ての定期保険や収入保障保険の保険料コストが下がります。
定期保険や収入保障保険に入っている方は、もしかしたら保険を見直すと保険料が下がるかもしれませんね。
(保険会社が解約に手数料を取らなければですが)
尚、実際の保険の見直しの際には、FPなどの専門家に相談されることを強くお勧めいたします。