10月14日、大阪梅田で開かれた、経済コラムニストの大江英樹さんの新刊
「お金の常識を知らないままに社会人になってしまった人へ」の出版記念&サイン会へ行ってきました。
大江さんと言えば、定年退職世代向けの書籍やコラムが思い浮かびますが、この本は初めての若い人向けの本だそうです。
セミナー冒頭のお話では、「中高生にお金を綺麗と思うか?汚いと思うか?」と聞くと
80%が「汚いと思う」と答えるという調査結果に衝撃を受けて、若い人にお金の本質を知ってもらおうと執筆しされました。
何故、中高生が「お金は汚い」と思っているかを考えると、おそらく親や先生からの教えが原因ではないか?という解に思い当たったそうです。
では何故、親や先生が「お金は汚い」と思っているかと言うと、お金の本質を教えてもらったことがないからだ、という結論になったそうです。
そこで、「お金の常識をしらないまま、社会人になった」と思われる親や先生向けの書籍の発刊となったのです。
書籍の内容については、ご関心のある方は是非購入してご一読をお願いしたいと思いますが、ここではセミナーで聞いたお話をもとにして、僕の考えを述べたいと思います。
大江さんの書籍は、まずお金の本質は「信用」であることから始まります。
例として挙げられたのは千円札です。
千円札を日本で持つとお金として認識され千円相当の物と交換できますが、例えばアフリカのどこかの国へもっていっても単なる「紙切れ」としか認識されないかもしれません。
日本人が日本政府を信用して、日本銀行が発行する「紙切れ」を「お金」として信用しているのです。
確かに、毎月給料をもらっても、見えるのは通帳の印字だけです。
つまり単なる電子データから紙幣という紙に変わって、物と交換しているだけですからね。
でもあなたが貰っている給料はあなたへの信用の対価です。
これをもう一歩進めると、「もしもあなたが信用されているとすれば、あなたの信用はお金に換算できる」ということです。
あなたが銀行から借りている住宅ローンは、あなたへの「信用供与」です。
あなたの信用をもとに住宅の担保価値を考えて、銀行が貸す金額を決定します。
更に言うと、お金を借りるということは、「お金と時間との交換」になります。
35年かけてお金を貯めて、その後に家を購入する代わりに、現時点で家を買って35年という時間をかけて支払って行くのです。
その時のお金の使用料が「金利」です。
つまり35年分の前倒しの快適さと支払うべき家賃の総額が、家の価値の減り具合と35年分の金利の総額(大きな金額です)を超えると思うから家を買う決断をするのです。
(35年後の家の価値は想定が難しいですが 笑)
これを検算すると、例えば4000万円で20年前に購入した自宅が評価額2000万円になったとして、利息を1000万円とすれば、コストは3000万円になります。
これを20年で割れば年間150万円。月額12万5千円で20年間借りたのと同じです。
(実際には税金や保険料、修理費、リフォーム費用などが発生するので13万円を超えるかもしれませんが)
ただし、実際にはこんな風にコスト比較を考えて家を買う人は多分いません。
周りの人が買うので何となく買うのです。僕もそうでした。
これは、何かを買う時に「自分の頭で考えていない」ことの一つの例になりますね。
住宅ローンでは35年という長い時間で物事を考えましたが、
大江さんはお金を借りてモノを買うことには基本的に反対のご意見です。
僕も同じで、家は買ってしまったので仕方ありませんが、何かを買う時には手持ちのお金で買えなければ、原則諦めます。
何故かというと、お金を借りてモノを買って、お金を返す「時間」を他のことに使ったほうが良いと思うからです。
これは「機会費用」という考え方です。
機会費用については、大江さんが本のなかで詳しく説明してくれています。
お金の殖やし方は大江さんの本領発揮の章です。
僕なりの言葉でいえば「経済合理的に生きる」ことがお金を増やす最短の道でしょうね。
僕が面白いと思うのは「投資」と「投機」の違いについてです。
大江さんは「投資」はお金を投じた先の「価値」の向上により利益を得ること、
「投機」はお金を投じた先の「価格」の変化により利益を得ること、として定義されます。
例えば、会社の価値が向上するには長い時間がかかります。
ところが株式の価格は一瞬で変化することがあります。
(例えばリーマンショック)
大江さんは「投資」も「投機」も社会にとり必要であり、善悪は付けられないとのご意見です。
ただし、価格の変化には心理的な要因が大きいので、短期間で大儲けをすることもあるが、大損をする可能性も高いことは要注意です。
じっくり時間をかけて、お金を投じた先の価値の向上を待つ「投資」を選ぶことを薦めておられます。
この章は「保険」について述べています。
ここも大江さんの本領発揮の章です。
「保険」といっても生命保険や医療保険というより、より大きな枠組みの「社会保険」についてです。
ここで最も基本的なことは「保険」と「貯蓄」の違いです。
「保険」は、将来の危険に備えて、できるだけ少ない保険料でできるだけたくさんの保障を得られるようにするもの、つまり損をすることが前提であるのに対し
「貯蓄」は、将来の楽しみのために、できるだけ沢山のお金を蓄えるべきもの
、つまり得をするためのものです。
例えば、公的年金は「保険」なのに「貯蓄」と考えてしまうと、貯められないから保険料を払わないなど、根本的に対応を間違ってしまいます。
尚、この本の趣旨から少し逸れますが、「誰もが死ぬまでに必ず入っておくべき保険とは?」という題名で、
FPの深田晶恵さんがダイヤモンドオンラインに、加入すべき保険について実際的なコラムを書いておられますので参考にしてください。
http://diamond.jp/articles/-/118845
ここでは「自分の収支を把握して、お金を借りない」ことを述べています。
面白いと思うのは、世の中の常識とは異なり、
「自分への投資は役に立たない」ことを主張されていることです。
大江さんは「資格は足裏の米粒みたいなもので、取っても食えない」と言われます。
これを聞いて思い出したのですが、昔アメリカで仕事をしていた時に、弁護士や会計士がやたら沢山いるので、同僚のアメリカ人に聞いたことがあります。
「アメリカでは簡単に資格が取れるのか?」
「そうだな。資格はスタートで、実践経験(プラクティス)がないと誰も仕事を頼みに来ない。資格は取ってからが勝負だ。」と言ってました。
かつて日本では、刻苦勉励して弁護士や会計士などの資格をとれば一生安泰でしたが、21世紀になってからは、この分野でも競争が激化してきたようですね。
この本は若い人だけでなく、お金と人生について一度じっくりと考えてみたい人におすすめの本です。
因みに、大江さんはこの本の印税を、あるプロジェクトに全額寄付するそうです。
プロジェクトへの寄付の理由については、この本を購入する方の参考になればと思い、勝手ながら大江さんのFBへの投稿を全文コピーさせていただきました。
「ご報告」
私はいつも自分が寄附をしても、それを人には言いません。なぜなら寄附というのは完全に個人的な問題で人に言うようなことではないからです。
ただ、今回だけは全く自分一人だけのことではないのでご報告をさせていただきます。先月発売になった拙著「お金の常識を知らないまま社会人になってしまった人へ」の売上による印税を全て文京区の「こども宅食プロジェクト」に寄付することとし、昨日初版の印税分を送金してまいりました。
「こども宅食プロジェクト」は貧困世帯の子どもたちの家庭に食料を直接届けるという初めての試みです。各地でやっている「こども食堂」も素晴らしい取り組みですが、現実には来てほしい子供を親が連れてきてくれないという悩みもあるようです。行政が主体となって援助が必要な家庭に複数のNPO法人の職員が手分けして食料を届けるというやり方に共鳴し、妻と相談して我々でできることをと考えた次第です。
なぜ、文京区のような豊かな地域で?と思われるかもしれませんが、人間が感じる不幸や幸福は絶対的な水準ではなく相対的なものです。私が小学校の頃、私の家はとても貧しかったですが、周りもみんな貧しく、地域の三分の一の子供が学校へ行っていないような大阪下町の最貧地域だったので別に不幸せは感じませんでした。周りが豊かな文京区だからこそ、そこに住む貧しい子供たちには援助が必要と言えるのかもしれません。
本来、印税は例えば10%ならこの書籍の代金の1400円の10%が著者である私に入ります。今回、私はこの本の印税を全て寄付いたしますので、この本を買ってくださった方はその代金の中から140円分を私にではなく、子供たちにプレゼントすることになります。恐らく一食分ぐらいにはなることでしょう。たとえ間接的とは言え、みなさんに買っていただいたお金の一部を寄付することになりますので、報告しないわけにはいきません。買っていただいた方には私の勝手な思いをお許しいただくと共に、みなさんのお力で私達夫婦の思いを届けることができたことを、あらためて御礼を申し上げたいと思います。これからもたくさん売れるほど、たくさんの子供たちに食べ物を届けることができますので、一人でも多くの方に買っていただけるよう願っております。もちろん、自前で販売のプロモーションもどんどんやっていきます。
また、この「こども宅食プロジェクト」はふるさと納税の仕組みを使って寄附することができますので、もしご関心のある方は一度ご覧になってみてください。もちろん返礼品はありませんのでどうぞご理解を(笑)
https://www.furusato-tax.jp/gcf/155
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
大江英樹 加代