社会保障の学習を始めてみると、日本に限らずどこの国でも社会保障は政治が大きく関与していることが分かってきます。数年前にユーロ危機の名前で騒がれたギリシャの財政危機では、財政収支均衡の解決策の一つとして年金の削減がEU諸国から強く要求され、ギリシャが国民投票でこれを拒む場面がありました。
慶応義塾大学の権丈教授によれば、厳密に言えば年金の給付水準を自動的に切り下げていくような仕組みを持つ国は存在しないそうです。したがってそれらの国では、年金財政をバランスさせるために、給付水準を固定化した形で、年金の支給年齢を引き上げる形をとらざるを得ないようです。しかし年金支給開始年齢の引き上げは、当然ながら有権者の反対を招くため厳しい政治過程を経なければなりません。仮に年金支給年齢の引き上げに成功したとしても、既得権益を変えることはできずに、新規の給付を抑制できるだけです。
翻って、日本の年金制度は、2004年に導入された「マクロ経済スライド」によって政治の介入を受けることなしに、段階的に年金保険料を引き上げています。このシステムは新規の給付だけではなくて、既存の給付にも適用されます。
保険料の引き上げは2017年度で終了します。ここからは、インフレはもちろんのことデフレでもスライドが行われれば、給付水準の変化はありますが、年金財政はバランスして継続が可能となる設計です。
諸外国で検討されている年金支給年齢の引き上げが日本でもすぐに起こるように言う人が沢山いますが、年金財政がバランスしていれば支給年齢を引き上げなくてもよいわけです。
ほかの国は年金財政をバランスさせるためには、(大幅な経済成長による賃金の飛躍的上昇以外では)年金支給年齢の引き上解決策が無いように思われます。
諸外国の年金制度に詳しい方がおられたら、是非教えてほしいところです。
では日本の年金財政は、どのようにバランスするはずなのでしょうか?
<収入=固定化> <支出=収入の範囲内に調整>
年金保険料 年金給付総額
年金積立金
国庫負担
前述したように、左側の収入は固定されていますから、右側の支出を「マクロ経済スライド」という仕組みを使って、年金の給付総額を収入の範囲内に限定するのです。
これらのことから幾つかの課題が見えてきます。
1. 収入の3要素の中で、保険料収入を増やせば年金給付も増える。このためには経済成長をベースとした賃金のば上昇が必要です。(積立金は緩あくまで緩衝材で
国庫負担は予算処置が必要なため補助的と考えます。)
2. 収入が固定されているが分配は変更できる。
(二番目は年金カット法案として国会で非難されましたね)
日本の年金財政と年金支給年齢引き上げについて、ざっと学習した範囲では、日本では年金支給開始年齢の引き上げは、無いとは言いませんが
「マクロ経済スライド」の全く効果が無いということが
立証されてから政治日程に上ってくるような気がします。
(参考文献)
権正善一「ちょっと気になる社会保障」2016年 勁草書房