• 定年男子のランとマネー

9月6日付の日本経済新聞電子版で連載されている「人生100年こわくない」というコラムで、第一生命経済研究所主席エコノミスト熊野英生さんが、「公的年金「不足感」への対処法」というテーマで

記事を執筆しています。

公的年金「不足感」への対処法 人生100年こわくない・マネー賢者を目指そう(熊野英生) – 日本経済新聞 (nikkei.com)

熊野さんは話の前提として、「老後生活は年金だけでは不十分」ということを指摘しています。

論拠としては、厚生労働省の資料で、厚生年金支給額の平均が男性16.3万円、女性

10.5万円、合計26.8万円であるが、ゆとりある生活の為の必要金額である34万円には約7万円不足することから議論がスタートしています。

なんとなくですが、かつての「老後2000万円問題」議論の時の、高齢者世帯の平均月間不足額

に12か月と30年をかけて、2000万円不足と騒がれたことを思い出しますね。

当時のレポートには、同時に高齢者世帯平均貯蓄が2000万円以上あったことも書いてあったと思いますが、当時も熊野さんの議論も、そのあたりには触れていません。

熊野さんは、年金の不足額を補う方法として3つを上げています。

一つ目は、老後も働き続けること。

記事では、総務省の資料から、世帯主が65歳以上の世帯で勤労している割合は25%、

4分のⅠ、これが70歳以上になると14.2%、6分のⅠ以下になるとしています。

熊野さんがここで言いたいのは、高齢者の勤労世帯は増加しているが、逆に言えば、働いていない(働けない)世帯がとても多いということです。

そこで、働けない場合には、2つ目の方法である金融所得を得ることに話は移ります。

熊野さんはここでFIRE(Financial Independence, Retire Early)の例を持ち出しますが、これからも低金利が継続するであろう(と彼が思っている)日本では、例えば4%の運用利回りを、預金と円債で長期間にわたって継続することは難しいと述べています。

米国債のことにも触れていますが、あくまで元本保証の運用に限定しているので、

「それはそうでしょうね。株式を運用資産に入れないで、4%の運用利回りの実現は

困難でしょう」と思います。

働き続けることも、金融所得を得ることも難しい人は、3つ目の解決策である「事業所得」

を得ることを目指すことになります。

熊野さんは、その中でも借り入れのレバレッジを効かせた不動産所得について述べています。

熊野さんの議論では、働き続けても、金融所得を積み上げても、得られるリターンは小さいので、大きなリターンを得て老後を豊かに暮らすには、借り入れを伴う不動産事業が一番効果的と説いているように読めます。

しかし、一方では、借入金増加への心理的ハードルが高いので、不動産事業は心理的安全を

求める人には向かないとも書いています。

最後は、若いころからいろいろと考えて、例えば不動産事業の経験を積んで、早めに

老後の準備をしたほうがいいよ、という結論になっているのですが、このコラムを読んで

この人は一体何を言いたいのかな?という印象を持ちました。

そもそも、なぜ話を「ゆとりある老後の生活費」からスタートさせるのでしょう?

記事の読み方によっては、老後にゆとりある生活を送るためには、リスクを取り、借入で

レバレッジを効かせた不動産事業を始めなさいと勧めているようです。

実際に老後生活を送ってみると、ある程度の貯蓄がある人が多いと思うので、例えば年金が、冒頭のように27万円程度ならば、仕事をしたくない人は、年金の範囲内で慎ましく生活し、

不足分を貯蓄から取り崩します。

年齢を重ねるにつれて、食費を含む生活費は減少していくので、貯蓄の金額にもよりますが

取り崩し額もだんだん少なくなっていきます。

金融所得と不動産所得に関しては、不動産事業で借り入れを起こして、長期にわたり資金を固定させるよりは、投資信託や株式を購入して、金融市場・世界情勢に敏感になるほうが、流動性は高いうえに、難易度はかなり低いと思いますね。

たしかに、熊野さんが言うように「老後が心配です」という人は、かなりいるようです。

今年1月に亡くなった、経済コラムニストの大江秀樹さんは、定年前の人たち向けの

セミナーで、老後不安を抱えた人が多いけれど、例えば実際の年金受給額も知らない人も

多いことを皮肉って、「皆さんは、老後を不安に思っているけれど、老後に関心はないのですね」と言っていました。

大江さんの言い分は、老後が不安なら、年金定期便を見るなり、家計簿をつけるなりして、

自分の老後生活を「見える化」する努力をすればよいのに、その努力をしないということは、老後は

本当の心配事ではないのですね、ということでした。

たしかに熊野さんの言うように、若いころから事業所得を得る、つまり起業をすることは

大きな所得を得るには良い方法です。

しかし人には向き不向きがあります。

実際に事業を起こして継続するには、大変な努力と人の助けと運が必要でしょう。

誰でもできるというものではありません。

仕事柄、金融系のスタートアップの話す機会が多いのですが、急速に成長している会社は

ほんの一部で、ほかの皆さんは相応に苦労をされています。

ところで、事業所得にやや近い方法で、自分は何もしなくてよいのが株式投資です。

株式に投資することは、資本提供者として、その会社の事業に参画することです。

自分自身で事業をやりたい人には物足らないでしょうけれど、例えば会社員をやりながら、

ゆとりをもって少額から株式投資(投資信託でも構いません)を行うことは、老後の準備としては

悪くない方法だと思いますね。


コメント一覧

返信2024年9月7日 10:47 AM

竹上昌毅24/

上山さん、ご無沙汰しております。 ご指摘ごもっとも、共感するばかり。 最近の同期会で必ず出てくるのがこの手の議論。元銀行員でも自分の年金受取額を認識していない人がかなり多いということ。 私は頂ける年金の範囲内で慎ましく生活するつもりです。

    返信2024年9月7日 10:58 AM

    セニョール24/

    竹上さん お久しぶりです。コメントありがとうございます。年金受給については、「平均」で論じると適合しない人が多すぎるので、自分はどうするのかを、各自のデータを確認したうえで判断することが重要だと思いますね。定年後生活をお元気でお過ごしください。 上山

返信2024年9月10日 12:00 PM

奥井一弘25/

ま、エコノミストという肩書がついていても売文業であることに変わりもなく、売れるためには不安商法に手を出すこともままあるわけですね。入るを量って出ずるを制す、ということを書いても誰も見向きもしませんから。

    返信2024年9月10日 8:03 PM

    セニョール24/

    奥井さん、コメントありがとうございます。新聞社がテーマを決めたのなら、熊野さんは言われて困ったような気がしますね。当たり前のことを書いても評価されないと思って、変な方向に行ったのでしょうか?笑

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