ブライアン・マッカーサー編「20世紀のスピーチ集」に出会ったのは、前職のスタートアップ企業の書棚でした。
誰かが置いたのでしょうけれど、黄ばんでいて、読んだ形跡もなかったので、単なる書棚の飾りだったのでしょうね。
内容は、20世紀の著名人のスピーチを集めて編集したものです。
英語で書かれたものが主体なので、国別では圧倒的に英国と米国です。
この本を読むことで、司馬遷の「史記」を読むように、編年体で20世紀を振り返ることができないかなと思っていました。
しばらくして、スタートアップ企業が解散して、オフィスを閉めることになったので、記念にこの本をもらってきました。
自宅に持ち帰って、さてどうやって読もうかなと考えていると、好きな作家である隆慶一郎の小説に「筆写に勝る読み方は無い」という言葉が再三出ていたのを思い出して、書き写しながら読んでいくことにしました。
ちょうどそのころに、現在の仕事である大阪府市の国際金融プロジェクトの窓口相談員の仕事が決まったので、日課の中に筆写を組み入れることにしました。
朝は、午前6時前に起床、朝食後にネットニュースなどを見た後、この本の筆写に掛かります。長時間はできないので、長くて1ページ、短いときはワンパラグラフの時もありました。
一番最初は、1899年4月のセオドア・ルーズベルト大統領のスピーチ。
ちょうど米国が西海岸までの開拓を終えて、世界に進出していくときです。
ルーズベルトは、日露戦争の講和条約の仲介人になって、ノーベル平和賞をもらっていますね。
そこから、英国のチェンバレンやロイドジョージなど、英国議会でのスピーチが続きます。
当時の英国は、南アフリカやアイルランドで紛争を抱えており、それらの議論も出てきて
面白い論戦になっています。
あとは、女性の権利の拡張のために戦った、エミリン・パンクハーストなど、この本を読まなければ知らなかった人たちの主張にも感銘を受けました。
第二次世界大戦前には、ヒトラーやスターリン、チャーチルやフランクリン・ルーズベルトなどのスピーチも掲載されています。
戦後は、インドのネール首相・米国のケネディ大統領、キング牧師、レーガン大統領、ニクソン大統領の系譜が続き、最後は英国のブレア首相の選挙勝利演説、ロシアのイェルツイン大統領のロマノフ王家殺害の懺悔演説、そして米国のクリントン大統領の不倫謝罪演説で終わっています。
しかし、この中には、毛沢東やゴルバチョフは含まれていません。
このことにつき、編者のマッカーサーは「ほとんどの共産主義者は雄弁ではなかった」
と記しています。
人々を狂奔させたヒトラーが掲載されていて、同じく大衆に大きな影響を与えた毛沢東のスピーチが、雄弁ではないという理由で掲載されていないのは面白いですね。
この本には、延べ159スピーチが525ページに掲載されていて、全部を筆写するのに、今日まで約3年かかりました。
時間のある時に、この本を手に取って、気ままに読み返すのも好いですね。
筆写したことで、どれだけ自分の心に残っているかを感じるのが、今から楽しみです。