いまから30年ほど前、米国アトランタのオフィスで一緒に働いていた、日本人（正確には
インド人と日本人のハーフ）女性と、性犯罪について話したことがあります。
（彼女は２０代前半で、犯罪が多かったアトランタ市内で一人暮らしでした）
彼女の意見は、「女性が襲われる場合は、強盗かレイプか、その両方かですね。
アメリカでは、痴漢もレイプも同罪なので、襲われたら犯される、そのためにバッグに小型拳銃を持っている人もいます。つまり、やる方も、やられる方も、命のやり取り覚悟です」
彼女がそう言ったのは、当時アメリカではHIVで亡くなる人のニュースが多く流れていて、
もしもレイプ犯がHIVウイルスを持っている人ならば、レイプされた女性は、HIVに感染して、命にかかわるかもしれないという背景がありました。
１９９７年に日本（関西）に帰ってきて、電車通勤を始めると、社内のアナウンスや
吊り広告に「痴漢は犯罪です」と書いてあるのを見て、米国と日本の性犯罪に対する
感覚の違いに驚いた記憶があります。
２０２３年の現在でも、韓国の女性DJの胸に触ったことが、彼女の訴えで大きく報じられると、「目の前に現れた彼女を見て、つい触ってしまった」という言葉が聞かれました。
スペインでも、サッカー女子ワールドカップで優勝した選手に、スペインサッカー連盟会長が、相手の同意を得ないままでキスをして大きな非難を浴び、女子選手が刑事告訴をする騒ぎに発展して、最終的に辞任しています。
この会長への批判に対して、会長の母親がハンガーストライキを宣言して、息子を守ろうとしました。
何となく、偏愛する弟ジャニーを、必死で守ろうとした姉メリーを想起させますね 苦笑
＜メディアの責任＞
９月９日付の毎日新聞「土記」欄で、専門編集委員の伊藤智永氏が、「ジャニーズ帝国と
沈黙」と題してご自身の主張を書いています。
伊藤氏は、今回のジャニーズの件を「権力問題」と位置付けて、忖度のあまり沈黙を守ったメディアの立場から、（ある意味での）弁明を書いています。
伊藤氏の主張を端的に表しているのは、「メディア（媒体）には影響力も責任もあるが、受け手に黙殺されれば、それも成り立たない。見聞きしたくないことに目と耳と口を塞いできたファンと社会は、純粋中立な第三者といえるだろうか」
さらに、「出版メディアは創業者の異常性について半世紀前から何度も警告していた。新聞は追求しなさ過ぎたが、裁判の判決はその都度報じている、しかし、それでは事件を止められなかった」
伊藤氏は、「権力支配は、上からの一方的な強制だけでなく、支配される側の先を競い合う組織内での服従と、組織外でそれを傍観し、追従する沈黙が作り出す」と書いています。
伊藤氏の主張は、メディアが報じるニュースの受け手としての国民の責任を論じていて、
他人事としての分析としてみれば、頷けるところもあります。
しかし、この文章を読んだ私の印象は、ご本人の所属する出版メディアと、ジャニーズ事件が起こっている芸能メディアを分けて考えているように感じます。
つまり、出版メディアはまとも（？）で、やるべきことは一応やったが、芸能メディアと、それに踊らされたファンは反省すべし・・・ということでしょうか。
私には、伊藤氏の主張と、その姿勢は、唯我独尊に思えます。
韓国の女性DJ、スペインの女子サッカー選手の事例と、世界の反響を見ても、性加害は
芸能界のみならず、大きな世界の関心事ということが分かります。
性加害という問題を、小さな芸能ジャンルの中の権力構造の問題として捉えて、芸能界と、スターに熱狂する人たちを、特殊なケースの中での他人事として批判する姿勢には、メディア人としての責任感を感じることはできませんね。
伊藤氏の主張もさることながら、普段、諸外国（特に欧米）からの評価を気にして、
ESG重視を表明している政治家や企業経営者からの発言が、企業のジャニーズ・タレントとのCM契約終了について以外はあまり聞こえないようです。
ジャニー喜多川氏の性加害問題を取り上げたBBCのジャーナリストは、おそらく芸能ではなく、社会問題担当でしょうから、日本の政治家や自社のCMにタレントを使っている
企業経営者が、この事件を特殊な分野の一企業のスキャンダルと捉えているのであれば、
大局を見誤るように思います。
実際に、９月１２日付日本経済新聞電子版の記事の中では、「三菱モルガンの黒田氏は「ESG（環境・社会・企業統治）を重視する海外勢を中心に、タレント起用銘柄への買いが見送られている可能性がある」と話す。と報じられています。
（出典：ジャニーズと株価 スポンサー企業のパフォーマンス試練 – 日本経済新聞 (nikkei.com)）
ジャニーズ事務所が解体するとか、被害者に補償するなども大切ですが、これだけ
世間および世界を騒がせた事件なので、何らかの良い変化を期待したいですね。