8月9日、大江英樹さんのセミナー「ビジネスの極意は世阿弥が教えてくれた」を視聴しました。
このセミナーは、大江さんの同名の著書の新刊記念セミナーです。
大江さんは、600年前に活躍した、この能の大家の著書の中に、ビジネスを進めるうえでの極意やビジネスマンとして分かっておくべきことを、たくさん発見しておられます。
セミナーの冒頭で、大江さんは、世間によくある「売り込み型セールス」に大きな疑問を
呈しています。
そのココロは、「セールスとはお客さんが欲しいと思っているものを提供することであって、
売り手が自分の売りたいものを押し付けることではない」との信念に基づいているようです。
もう少し具体的に言うと、大江さんの勤務していた証券会社では、ある商品(おそらく株式や投資信託)を販売することを「上」(上司、上層部など)が決めたら、販売目標(ノルマ)と共に現場に卸されてきて、顧客の意向を無視(?)して売りまくるということが、頻繁にあったようです。(セミナーでの大江さんの口吻からの推測 笑)
これに対して、大江さんが挙げている世阿弥の言葉は
「時によりて、用足るものをば善きものとし、用足らぬを悪しきものとす」
(その時、その場のニーズに応えられるものがよいもので、応えられないものはよくないものである)
出典:「ビジネスの極意は世阿弥が教えてくれた」p27
大江さんが以前に勤務していた会社には、「北極で冷蔵庫を売れるのが優秀な営業だ」
と豪語していた人がいたそうですが、大江さんによれば、これはセールスというものを
全く勘違いしている人だそうです。
本来は、マーケティングで、顧客のニーズを完ぺきにとらえていれば、セールスは不要、
むしろお客さんのほうから製品を買いに来る・・ことが理想です。
全ての物があり余った時代には、なかなかに厳しい言葉ですが、そこで大江さんは、
大経済学者シュンペーターの言葉を引用します。
曰く、「イノベーションとは技術革新のことではなく新結合、つまりこれまで組み合わせたことがない要素を組み合わせることによって、新たな価値を創造することである」
そしてイノベーションの好例として挙げているのが、iPhoneです。
iPhoneが出たのが2007年ですが、それ以前に日本にも似たような技術はありました。
それが電子手帳です。
iPhoneは電子手帳の技術をインターネットに結合させましたが、革新的な技術は特に
無かったそうです。
技術至上主義の日本の技術者は、iPhoneを馬鹿にしていたのですが、結果はご存じの通り。
見事に顧客のニーズにマッチして、アップルを大大企業に押し上げる原動力になりました。
スティーブ・ジョブズのような成功を収めることは、難しいうえに稀です。
しかも彼は、iPhoneの成功以前に、夥しくかつひどい失敗を何度もしています。
度重なる失敗にめげず、努力を続けて、最後に本当の顧客ニーズを掴み取ったところは、
世阿弥流に言えば、「衆人愛敬をもて、一座建立の寿福とせり」
(多くの人に愛されてこそ、一座(会社)は繫栄し維持される)
ということなのでしょう。