6月5日に「みんなのお金のアドバイザー協会」主催のセミナーで、「日銀ETF問題」
というテーマのセミナーに参加しました。
講師は平山賢一さん(東京海上アセットマネジメント株式会社 執行役員運用本部長)です。
ちなみに日本銀行は日本政府が55%を出資する子会社です。
連結すると、日本政府と日本銀行は一体として考えられます。
日本銀行の目的は、「物価の安定」と「金融システムの安定」です。
日銀総裁が「物価上昇目標を2%に設定する」と宣言して、何度も「バズーカ砲」(大規模な量的金融緩和)を行ってきましたね。
また平山さんによれば、第二次大戦後の混乱期などには日本銀行が直接株式を持ったこともあるようです。
したがって日銀が株式を持つこと自体は前例があります。
しかし、下に示すように、ここまでくると、明らかにやりすぎです。
2020年12月31日の日銀のバランスシートは下記の通りです。
(赤字は筆者)
営業毎旬報告(令和2年12月31日現在)
資産 (単位:千円)
金地金 441,253,409
現金 139,695,216
国債 535,509,819,290 (535兆円)
コマーシャル・ペーパー等 4,370,212,545
社債 6,464,620,189
金銭の信託(信託財産株式) 597,023,745
金銭の信託(信託財産指数連動型上場投資信託) 35,300,535,044 (35兆円)
金銭の信託(信託財産不動産投資信託) 650,522,784
貸付金 111,664,966,000
外国為替 6,706,228,128
代理店勘定 552,953
雑勘定 736,784,699
合計 702,582,214,006
負債および純資産
(単位:千円)
発行銀行券 118,328,163,723
当座預金 494,227,251,044
その他預金 28,206,419,469
政府預金 49,195,013,910
売現先勘定 324,135,669
雑勘定 2,574,199,777
引当金勘定 6,410,145,786
資本金 100,000
準備金 3,316,784,625
合計 702,582,214,006
(出典 https://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/acmai/release/2020/ac201231.htm/)
<ETF>
平山さんの講演の趣旨は、国債ではなくて日銀が保有する膨大な量のETFをどうしたらよいのか?ということでした。
日銀の現在の金銭の信託(ETF)保有額は、35兆円(評価額では40兆円超)です。
2020年9月のETF時価総額は約50兆円なので日銀の保有比率は約85%になります。
ETFはご存知のように株価指数などに連動する投資信託なので、ETFに投資することは
例えばTOPIX全体に投資することになります。
日本の株式市場の時価総額は700兆円くらいなので、40兆円は約6%相当です。
一国の株式市場全体の6%を中央銀行が保有しているのは異常です。
現在の日本株式の最大株主は日本銀行ということになりますね。
現在は日銀の株価維持政策のおかげで利益が出ているから、一般にはあまり批判の声は聞こえませんが、もしも株価が暴落したら莫大な損失が発生します。
したがって日銀は損失を回避するために、必死になって量的緩和を行って現在の株価を維持しなければなりません。
そうしないと最悪の場合には日銀が債務超過になりかねないからです。
そうなると日銀券(お札)の信用も怪しくなりますね。
<国債>
日銀のバランスシートのうち国債は同時期の総発行残高1216兆円に対して日銀は535兆円(約44%)を保有しています。
日本国発行の国債の約半分を日銀が保有しているのですが、これを日銀の直接引き受けが
行われた第二次世界大戦中と比較してみるとこうなります。
国債発行残高/GDP 145%(1944年)
日銀引き受け/国債発行額 約65%
(出典 file:///C:/Users/ueyam/Downloads/0453-4778_60_2_04%20(2).pdf)
現在のGDPを約500兆円とすれば、国債発行残高はGDPの243%で戦時中を上回りますね。
日銀の国債保有率は戦時中と比較すると20%ほど下回っています。
これは下回っているからよいということではなくて、異常だった第二次世界大戦中の日本の財政状況に近づきつつあるということです。
ちなみに日銀の総資産に占める国債の割合は約76%です。
資産の4分の3を国債が占めているわけですが、まさに日銀は必死になって政府の
放漫財政を支えているという感じがしますね。
<インフレ>
日銀は物価上昇率2%を達成するために、量的緩和政策を続けているのですが、
片方ではインフレ率は上げて、金利は低いままに抑えるという曲芸のようなことを
やっています。
何故、量的緩和によって低金利政策を続けるかというと、金利が上がると日本の財政が大変なことになるからです。
国債の発行残高が1216兆円とすれば、金利が1%上昇すると約12兆円の利子の追加出費になります。
このうち5兆円は日銀に利子として支払われるので、残り7兆円が実質の支出です。
(政府が子会社である日銀に利子を支払うのは、実質的な財政ファイナンスの結果ではないかと思いますが・・)
日本の国家予算が100兆円超ですから、そうなると7%程度が国債の追加利払いに充てられます。
それに金利が1%上昇すると、日銀が保有する国債の価格が暴落して巨額の評価損が
発生します。
満期まで保有すれば満額で返済されるという理屈もありますが、気短な金融マーケットで
そのような気長な理屈が通用するかは疑問です。
現在の国家予算の半分くらいが社会保障費ですから、国債の利払いと合わせて国家予算の半分以上の支出先が固定されてしまって、そのほかの教育や防衛などの予算が削られてしまいます。
あるいは国家予算自体が膨張してしまって、財源のために国債発行を増やすというイタチごっこになってしまいます。
こうなってくると、日本政府と日銀は株価が下がらないように、そして金利が上がらないように、大規模な量的緩和を永遠に続けなければならなくなります。
でも永遠に続く政策などありえません。
百歩譲って国債の残高は償還とともに減少するとして(気の遠くなるような将来ですけど)
ETFは自主的に売却しないと減少しませんね。
しかし巨額のETFを一度に売却すると、株価が暴落して大きな損失が発生します。
外から見ると、日銀は大きなジレンマに挟まれて、全く身動きが取れないように映るのですが、日銀総裁はテレビなどのニュースでは、にこやかで自信に溢れているように見受けられます。
日銀総裁の姿勢が「張子の虎」ではないことを願うばかりです。