7月20日午前7時。
いよいよアイガートレイル51キロのスタートです。
101キロの参加者は、既に午前4時にスタートして、26時間のタイムレースを闘っています。
51キロは、6時45分と7時のウェーブスタートです。
おっくんとイグちゃんは6時45分。僕たち4人は7時のスタートでした。
スタートの号砲が鳴ってロードを2キロほど走り抜けます。
とうちゃんがビデオでスタートの様子を撮ってくれているはずですが、僕にはよく見えませんでした。残念!
山道に入るとフィルストまではずっと登りです。
タイムプランでは、途中のグロスシャイデック(GROSSE SCHEIDEGG 標高1960メートル)までを2時間で行く予定でした。
初めは同じツアーの「なんめちゃん」と一緒に登りだしました。
彼は2回目の参加で、昨年は不本意な事情で途中棄権したので、今回は雪辱に燃えています。
僕はなんとか彼に付いて行って、時間内にファウルホルンを越えるのが狙いでした。
ところが、途中でオランダから来たデンプシーという31歳の若者と知り合いになって、ずっとデンプシーに引っ張ってもらう形で進みました。
彼は10キロランが専門のランナーでタイムは37分くらいだそうです。
昨年はこの大会の35キロに出たので、今年は51キロにステップアップしたそうです。
仕事で日本の商社に関係があるので、一度日本に行ってUTMFに出てみたいと言っていました。
彼からオランダを含むヨーロッパの話を聞きながら、僕から日本の話をしながら進みました。
彼の方が早いので、時々自然に待ってくれているのがわかりました。
こちらに余裕が無いので、水分やエネルギー補給について自分が取りながら、さりげなくアドバイスをくれました。
それにしても、足の長さの違いなのか、ヨーロッパ人は登りが早いし強いですね。
自分との差を実感しました。
グロッセ シャイデックを2時間で通過して、試走で訪れたバッハアルプゼーも通り過ぎて、第一関門のフィルストまで当初のプラン通りに合計3時間で到着しました。
フィルストでとうちゃんにデンプシーと写真を撮ってもらって、絶景ポイントも順調に過ぎました。
ここから90分かけてフェルド(FELD)向かいました。
ここも予定通りに通過したのですが、先についていたデンプシーに追い付こうとして、休息を充分にとらずに、補給も不十分なままに出発してしまいました。
僕たちがグリンデルワルドに着いてから、ずっと好天が続いていたのですが、大会当日は好天を通り越して暑いくらいでした。
太陽からの直射の熱線が身体中を打ち抜く感じで、準備した水では足りずに脱水や熱中症になった人も何人かいたそうです。(ヘリコプターで運ばれた人もいたと聞きました)
フェルドからファウルホルン(FAULHORN 標高2680メートル)までの登りはホントにしんどかった。
途中で足元がふらついて、よろけてしまって、岩の上に座ろうとしたら、岩の傾斜が下向きで後ろ向きに一回転して転げ落ちてしまいました。
右肩を少し打ちましたが、頭を打たなかったので、直ぐに起き上がりました。
禿頭のイタリア系の人が、「おい、大丈夫か?」とやってきて、「大丈夫だけど、あとどれくらいだ?」と聞くと、上の方を指さして「まだ半分だ。グッドラック!」と言って登って行きました。僕には無理だと思ったようですね。
時間は既に予定の90分に達していました。
関門を通過するまであと45分です。
「まずい!」
ここでふらつきの原因を考えてみました。
心拍数は135~140くらいです。頭痛は無し。高山病ではありません。
これはもしかしたらハンガーノック(エネルギー不足)かもしれないと思って、日本から持参した固形食を口に入れました。
無理して歩きだすと、頭がはっきりしてきて、足も動き出しました。
ここで6月にダイヤモンドトレイルでポールを練習したことを思い出して必死に登りました。(その時のブログです)
ようやく30分かけてファウルホルンまで登り切って、10分休んで、関門5分前に出ました。
結局フェルドから2時間以上かかりました。貯金が無ければ関門アウトでした。
デンプシーのおかげですが、彼はもはやファウルホルンにはいません。
残念ながらのお別れでした。
ここで、後からきた「なんめちゃん」に追い付かれて、直ぐに追い抜かれました。
ここは大変な登りでしたが、前日にツアー仲間の「ケントさん」からもらった、膝用のロール(商品名はニューハレ ロールテープと言うそうです)が効いて膝痛が起こらなかったのもラッキーでした。
ファウルホルンを越えるとエッグ(EGG)まではガレ場の下りです。
先ほどのふらつきが、こんなところで起これば、崖下に真っ逆さまです。
浮石も多く、左は急な崖なので、重心を右に置きながら降りて行きました。
途中で長い雪渓もありの変化にとんだコースでした。
エッグで「なんめちゃん」に追い付いたのですが、また離されてシャイニゲ プラッテ(SCHYNIGE PLATTE)に向かって降りて行きました。
下り基調なのですが、時々登り返しがあって、それが疲れた足には辛い!
シャイニゲ プラッテには何もなくて、10分下ったシャワンド(SHAWAND)に行けば
水と食糧があると言われて降りて行きました。
牧草地の急な下りだったので、全身の力を抜いて、落ちていくような感覚で走りました。
シャワンドが最終関門で関門時間は午後5時です。
ここに午後4時半に入って、10分休んで出ました。
次のエイドのブルグラウエネンまでは低地の樹林帯を進みました。
簡単に言えば、日本のトレイルです。
シングルトラックで木の根が多い山道ですね。
蒸し蒸しと暑いところまで似ています。
ここでは、遅いけど道を知っていそうなおじさんを見つけて付いて行きました。
後から聞くと、この人もオランダ人でした。(尤もオーストリア生まれだそうですが)
このおじさんを追いかけて樹林帯を抜けていると、すでに3位でゴールしたおっくんが、コースを逆走して応援に来てくれているのに出会いました。
嬉しかったなあ~
写真を見ると、にたにた笑っていますね。我ながら気持ち悪い(笑)
ここで激励されて、無事にブルグロウエネン(BURGLAUENEN)まで着きました。
ここで11時間15分くらいでした。
ゴールまでの7キロを2時間45分で行けば完走です。
少しゆっくりして、鋭気を養うと、歩き出しました。
ここからは殆ど平地でした。
氷河が溶けた水を運んでいる川沿いをずっと歩いていくのです。
川の反対側には道路が走り、電車が通っていました。
ふと2月に訪れたニュージーランド南島でトレッキングしたことを思い出して、せっかくだからグリンデルワルドの景色を楽しみながら散歩することにしました。
よく見ると高地らしい色とりどりの小さな花が咲いていました。
道沿いには、一定間隔でベンチが置いてあって、散歩する人が休息できるようになっていました。
「スイスの家はみんな南向きで同じような形だなあ。家と家の間隔も広いし、きっと規制が厳しいのだろうな。中古の家が多いのかな?」
などと考えながら進んでいると、後ろから走り抜ける人を見つけました。
おっくんです。
みんなの応援を終わって、ゴールに向かっているようです。
後姿を呼び止めて、さきほどのお礼を言って別れました。
しばらく行くと、先ほどのオランダ人がなにか叫びながら歩いていました。
近づくとスマホに向かって怒鳴っていました。
横に並ぶと、「俺は今ワイフと話しているんだ」と言います。
「喧嘩みたいだな」と思いながら、スマホの中の奥さんにお愛想して追い抜きました。
次にアイルランド人の一行に出会いました。
その中の一人と、イギリス人の悪口を言いながらゴールに向かいました。
「EUの離脱をどうするんだろう?」
「イギリス人は誰とでも揉めるのよ。合意なんかしないわ」
よく考えると、アイルランドはイギリスの最初の植民地で、過去に苛められた記憶があるらしく、たしか仲が良くはなかったな~
などと考えながら最後の急登に辿り着きました。
ここを越えて、市街を歩いていると、ゴールまであと100メートル位になって
先ほどのアイルランドチームの今度は男性が走りながら声を掛けてきました。
「俺たちは走ってゴールするけど、お前も一緒に走ろう」
「オーケー」
僕たちはそのまま走り出して、ゴール前のスロープを越えてゴールインしました。
タイムは手元の時計で12時間34分21秒でした。
まあ、タイムよりも51キロの難コースを完走できたことが素直に嬉しかったですね。
このあと、ホテルでシャワーを浴びて、おっくんたちと夕食を食べて寝ました。
その間にも101キロのランナーがゴールをしていたので、午前2時半ごろに起きて、
ゴールした「せいじさん」と「ケントさん」を迎えに行きました。
2人とも疲れてたけど、いい顔してましたね。
翌日(と言っても数時間後?)、おっくんの3位表彰式の後で、溜まった乳酸を減らす対策も兼ねて、氷河の作った渓谷に散策に行って軽食を食べました。
夕方から「やなるん」と「なっちゃん」のご自宅で、バーベキューパーティーです。
心のこもった打ち上げですね。
大いに飲んで食べて、発散して、翌朝の8時半にホテルを出発し、チューリヒ空港へ向かいました。
長いような、短いような8日間でした。
でも一生忘れないでしょうね。
そういえば、とうちゃんはかあちゃんに付いて、トレラン?を始める様な事を言ってましたね。
2人仲良く、続けられることをお祈りいたします。
それから、嬉しい話があります。
デンプシーが僕を探して、帰国後にメッセージを送ってくれました。
早速、2人が写った写真を送ると、「次回は富士山で会おう!」と返事がきました。
(まさかUTMFじゃないだろうな、とは思いますが 笑)
尚、写真提供は@funswiss_film_unt_natur_swissです。