小西美術工藝社のデービッド・アトキンソン社長の著書「新・生産性立国論」を読みました。
アトキンソンさんはゴールドマン・サックス社で金融アナリストをされていた時に、日本の銀行の不良債権問題の実態を記したレポートを発表して注目されたことがあります。
僕はアメリカで不良債権を片付けていた時に、日本でも同じような問題が、もっと大きな規模で起こるのではないかと思っていたので、(レポートは読んでいませんが)意外感はなかった記憶があります。
アトキンソンさんは、何を思ったかゴールドマンの共同出資者の地位を捨てて、小西美術工藝社という古美術の会社に入社して社長になりつつ、観光や所得倍増について活発に意見を発表しています。
時代は違いますが、何となく幕末の英国人アーネスト・サトウを思い出しますね。
アトキンソンさんが主張する日本の大問題は、人口減少が引き起こす大転換です。
変革によって劇的に生産性を上げなければ、現在の国力を維持することは不可能で、日本国民は奈落の底へ落っこちるという意見です。
今のままでは人口増加を前提に設計されていた現在の社会制度を支えることができません。
需要の深刻な減少によってこれまで隠されていた問題が暴かれてすべての要因がマイナスに働くのです。
具体的には、3つの問題を上げています。
一つ目は「高品質・低価格」のウソ。
まず「求める人がいなくなっている高品質」として「ちょんまげ」を例に出しています。
どれだけ髪の結い方が高品質でも、明治維新以降の髪結いは需要がありません。
次に「誰も求めていない高品質」として「ピーンと張ったベッドのシーツ」の例をあげています。(実際にあった話だそうです)
シーツがピーンと張って素晴らしい、とホテルの経営者は言いますが宿泊客はそんなことをホテルに求めていません。
むしろアーリーチェックインなどのサービスが求められているのですが、そのホテルはタイムスケジュールを変えないそうです。
他のホテルでも、高品質サービスと称して丁寧なお辞儀はするのですが、ネット予約もカード決済もできないところがあるそうです。笑
さらに「適切な価格にするとやらなくていい高品質」として宅配サービスを上げています。
当日配送が高品質だと思っていたのが、ドライバーが人手不足になると「急がないから当日でなくてもいいよ」に変わります。
もしも、「当日に配達するから送料を高くする」といえば「当日でなくてもいいから無料にしてくれ」と言われますね。笑
まだまだありますが、関心のある方は本書をお読みください。
二つ目は女性が働くと生産性が低下するという不思議です。
生産性とは「1人当たりのGDP」です。女性の賃金が男性より低いので、女性が働くと低賃金の労働者が増えて生産性が下がるのです。
「女性の活躍」と言っておきながら大きな矛盾が隠されていますね。
三つめは「奇跡的に無能な日本の経営者」です。
アトキンソンさんは、日本の経営者は付加価値合計(GDP)の総和を増加させる努力をせずに、ひたすら給与を下げて利益を上げてきたと主張します。
給与を下げると国民の所得が下がり、消費が低迷し、GDPが伸びずにデフレになります。
日本経済のデフレを作ってきた責任は、経営者の無能にあるというのです。
特に付加価値の小さい中小企業の経営者の責任は大きいそうです。
アトキンソンさんの提言は続きますが、もしもこれまでのように雇用を守るために競争力のない企業を温存する政策を撮り続ければ、これからの日本は生産性(=1人当たりGDP)が逓減し続け、年金や社会保障制度が維持できなくなってしまうと警鐘を発しています。
どの指摘も思い当たることが多いですね。
過去の日本の歴史では、明治維新でも第二次大戦後でも、外部からの力に対して内部から立ち上がることで国家を改革してきたのですが、
最近僕が感じることは日本のどこかに立ち上がる力が残っているのだろうか?ということです。
立ち上がるのは大体が若者と決まっていますが、大量の高齢者が重しになって立ち上がれないのではないかなあと考えてしまいます。
これは人口が減少し高齢化する日本の大きな問題かもしれません。