10月4日、大阪倶楽部で産経新聞の加藤社会部編集委員の講演を聞いてきました。
うっかりしたことに、講演を聞くまで講演者が、あの加藤記者だと思い浮かびませんでした。
演題が「風雲 朝鮮半島~半日の根源と日本の危機」だったので、
てっきり産経新聞が朝日新聞を批判するような話かなと思っていましたが、
加藤元支局長から、韓国での逮捕から裁判で無罪になる過程を聞くことができました。
加藤元ソウル支局長が逮捕されたのは2014年8月5日です。
逮捕理由は、彼が産経新聞の公式ウェブサイトに書いたコラム
(セヴォル号沈没事件発生時の朴槿恵大統領の「空白の7時間」疑惑)が名誉棄損に当たるというものでした、
加藤記者の話では、8月3日に書いたコラムに対して、大統領府からソウル支局に「すぐに謝ればなかったことにしてやる。その代わり即刻帰国しろ」との恫喝電話があったとのことです。
実際は彼が書いたコラムが韓国語に翻訳されて、そこに左派が書いたコラムが追加されて、
その追加部分に大統領を誹謗する内容が書かれていたということでした。
加藤記者は、韓国での取り調べの様子や、法廷の状況を詳しく描写して、韓国の司法が国民の情緒に左右されるもので、如何に証拠や事実が軽視されているかを述べていました。
例えば、加藤記者を訴えた右翼の人間が証人として呼ばれて、「記事のどの部分が誹謗に当たるのか?」と聞かれて答えられなかった挙句に、
「韓国国民の多数が反日感情をもち反産経新聞も多く、記事に対して気分が悪かったので告発した」と言い放ったと言います。
加藤記者はこのことを含めて、韓国の司法のやり方に対して極めて批判的です。
確かに無実の罪で逮捕されたら、好意的にはなれないと思いますね。
加藤記者は更に、日韓の慰安婦問題に関して、朝日新聞が自社の吉田清治記者が書いた記事がねつ造であると認めたのが2014年8月5日であり、自分が逮捕された日と同じであることとの符合を疑います。
この辺りは、無実の罪で逮捕された悔しさもあってか、かなり詳しく、かつ分析的に話が進みます。
一方の当事者の話なので、「そうなんだなあ」と聞いているしかなかったのですが、
僕が気になったのは次の部分です。
加藤記者が逮捕されて、産経新聞本社は大慌てになります。
まず、記者が書いた記事の妥当性を検討して、事案への対応方針を決めねばなりません。
そのためには、記事を書いた人間について知る必要があります。
ところが経営者(社長)は、経営判断をするにも、当然ながら逮捕された記者の性格や人柄を知りません。
加藤記者によれば、当時の産経新聞の社長はいろいろと調べた結果、
「報道の自由のために戦う。理不尽な譲歩はしない」という方針を決めて、韓国及び日本国内からの圧力にも屈せずに自分を信じて守ってくれたと話していました。
この部分に関心を引かれた理由は、僕がかつて米国に駐在していた時に、常に意識していたのが訴訟リスクだったからです。
交渉の相手だった不動産のデベロッパー達は、契約書に書いてあることを強く要求をすると、破産すると開き直るか、別の条項を使っての訴訟を匂わせるかなどでした。
米国の訴訟では、組織とともに必ず個人も訴えられるので、もしも被告人になったら銀行本社はどうするのかな?と時々思っていました。
当時の銀行内部では、国内の不良債権問題が顕在化する直前だったので、海外の不良債権に厳しい目を向けていました。
(海外の不動産融資の不良債権発生のほうが、日本のバブル崩壊より時期が早かったのです。その代わり抜け出すのも早かった)
当時の米国の破産法を含む司法制度は日本とは大きく異なっていました。
それを経営主体である国内部門の経営陣に説明して、海外の出先の被告人(駐在員)に支援をしてくれるのかなあ?とか、そもそも国際部門の中で、米国をはじめとする各国の司法制度を十分理解しているのかしら?と不安に思っていました。
加藤記者の韓国での逮捕は、歴史的にも地理的にも近い(遠いのかも?)韓国で起こったことですが、社会制度が異なる国で逮捕や裁判が起こった時に、日本の公的・私的組織はどれくらい的確な援助ができるのかが、現役を離れた今でも心配ですね。
加藤記者は現在の文政権と北朝鮮についても私見を述べていました。
文政権については、この時期に北朝鮮と融和を図ろうとする行動をとっていることと、日韓の問題をどんどん増幅していると批判していました。
北朝鮮については、「信じるものは力のみ、人命の価値は低い、約束は時間稼ぎ」と批判して、有事に備えて是々非々で様子を見るしかないとのご意見でした。
加藤記者のコメントで気になったのは、「(両国とも)どの時代を生きているのか?」という部分です。
彼によれば、韓国の憲法には(1910年の韓国併合のあとで1919年に上海で作られた)大韓民国臨時政府の法統を引き継ぐことが銘記され(反日の意思)、北朝鮮の火星12型ミサイル発射の際には「1910年8月29日の(韓国併合への)復讐」とのコメントがあったそうです。
彼から見れば、いつまでも過去にこだわるな、ということなのでしょうね。
でも一度は祖国が無くなった人たちが簡単にその事実を忘れてくれるかはわかりません。
相手が永遠に謝罪を要求し続けるという姿勢をとるのはどうかと思います。
しかし相手の心の中をコントロールすることも困難でしょう。
彼の最後の指摘は、現在日本は解決すべき領土問題が山積みしているとのことでした。
ロシアとは北方領土問題、中国とは尖閣諸島問題、韓国とは竹島問題(+慰安婦問題)、北朝鮮は半島統一(+拉致問題)です。
韓国は分かりませんが、他の国はいずれも武力を行使してくる可能性が高い国家なので、日本は立ち位置と軸を明確にして、言うべきことははっきりと言うべきだとのことでした。
一時間ほどの講演だったので、加藤記者が言いたいことが十分理解できたかは心もとないのですが、日本を取り巻く情勢への危機感は十分伝わってきました。