年金積立金の残高は平成28年第3四半期末で
144兆8036億円となっています。積立金の市場での運用が始まった平成13年から見れば平均2.93%の収益を上げており、累積の収益額は53兆615億円になっています。
例えば平成21年の財政検証では、運用の目標値を
4.1%として高すぎるとの批判を浴びていたのを記憶している方もおられるでしょう。確かに時期は異なっていても2.93%の実績に対して4.1%は高いように見えます。
でもこれは比較する対象が違っているのです。詳しくは下記の引用に書いていますが、4.1%という数字は
名目賃金上昇率(当時は2.5%)と運用の目標スプレッド
(当時は1.6%)を合計したものでした。つまり2.93%に対応する数字は4.1%ではなくて1.6%だったのです。
故意か曲解かは分かりませんが、運用利回り4.1%は高すぎて非現実的だとの意見が世の中に充満して、政府と官僚の見通しはやはり信用できない、ひいては年金制度自体も信用できないという意識が浸透したのではないかと思います。
冷静な議論ができない状態というのは怖いですね。
(資料の黒字とアンダーラインは筆者)
(第22回社会保障審議会年金部会資料より)
現行の公的年金制度は、原則として、現役世代の名目賃金変動率を用いて、新規裁定者の年金額が改定 される仕組みとなっている。したがって、現役世代の賃金が上昇した場合は、直ちに新規裁定者の年金額が 増加する仕組みである。 一方、既裁定者の年金額は、原則として、物価に応じて改定される仕組みであるが、新規裁定者の年金額 が名目賃金上昇率に応じて改定される仕組みの下では、長期的にみると年金給付費の総額は名目賃金上 昇率に連動して増加することになる。 したがって、給付も負担も賃金に連動することとなるため、運用収入のうち賃金上昇率を上回る分が、年金 財政上の実質的な収益となる。 このため、年金財政においては、名目運用利回りから名目賃金上昇率を差し引いた「実質的な運用利回り (スプレッド)」が重要である。