大会当日は晴れ猛暑。奈良県の平地の最高気温は31度の予想でした。
大会の朝は旅館の方が見送ってくれました。
会場は旅館から徒歩で15分くらいです。ぶらぶらと歩いていくとランナーたちが装備を背中にしょって集まってきます。
僕は比較的早めにつきました。ストレッチでもしようかと思っていると、私服の美女が二人います。
トレイルランナーズ大阪の練習生仲間が誘い合わせて、それぞれ宝塚と大阪市から車を飛ばして応援に来てくれました。
宝塚からの女性は先日比叡山トレイル大会を完走したのですが、その時に今日走るYさんとTさんがボランティアで応援したのです。彼女たちの行動力には完全に脱帽です。Yさんは驚き、Tさんは走る前から嬉し涙です。
実は前日の洞川温泉に来る時のバスの中で、2年前にダイヤモンドトレイル大会で知り合ったSさんとTさんYさんの4人が一緒になりました。
Tさんとは2月に山へ行く約束をしていたのですが悪天候で流れたままになっていました。流したのは僕だったので、約束を果たさねばという思いがありました。
彼女は今回の大会は必ず完走したいと言います。強い思いがあるようです。僕も初参加で完走したかったので、2月の約束を実行するために一緒に走ることにしました。
大会関係者やコースディレクターの横山さんの挨拶が終わってスタートです。
暑い。Tさんと並んで走り出します。
Tさんは事情があってアスファルトを走ると足が攣りやすくなるとのことでした。初めから突っ込むこともないので、登りは適当に二人で歩いていると、いきなりの急激な登りです。
FBなどで多くの人がコースについて書いているので、ここではKobo Trailの登りと下り全般について、僕の感じたことを書いてみます。
山を歩いたことのある人は、急登には大抵階段が設置されていることをご存知だと思います。階段は辛いけれど、足をあげれば身体を上に運べます。
Koboの登りは階段がありません。階段が設置される以前の状態です。
ここを登るためには、どこかにつかまって、足を踏ん張って身体を持ち上げる必要があります。
ところがKoboの登りには掴むところが無い場所もたくさんあります。
したがって身体のバランスを取りながら、自分の前を行ったランナーの足跡を踏んで登っていきます。
体幹の強さが勝負になります。
Koboの登りのもう一つの特徴は「偽ピーク」です。
キツイ登りを漸く終わったと思ったら、矢印が見えてきてさらに登りが続きます。連載小説の「次回へ続く」を見ているような感じですね。楽しむ余裕はありません。次の登りを越えると、また「次回へ続く」です。これが何度も繰り返されるので「心が折れる」コメントが出るのでしょうね。
まさに心が試されているようです。
「修行の道」と言われる所以の一つでしょう。
登りの厳しさのエピソードを一つご紹介します。
スタートから28キロ地点に紀和随道があります。この道は両方にネットが張ってあります。ネットの中は有刺鉄線です。幅は1.5メートルくらいかな?
急な崖路で、掴むところは有刺鉄線しかありません。バランスを崩せば転がり落ちます。僕のすぐ後ろをTさんが登っています。彼女は僕のことを何故か「隊長」と呼びます。
「隊長!これは50度ありますよねー!」とTさんが叫びます。
当日は真夏日で暑かったのですが「50度もないやろー。女性は体感温度が高いのかな?」とボケたことを考えていると、「隊長!やっぱり傾斜50度はありますよねー。私は四つん這いで登っています!」
彼女は僕のすぐ後ろを登っているようなので(振り向くと転げ落ちそうなので声だけです。)一蓮托生で緊張感が満載です。
実際に計っていないので傾斜が何度かは分かりませんが、かなりの傾斜です。これくらいの傾斜の場所がいたるところにあります。
やっとのことで紀和随道の崖を登りきると、先に行っていた若いアスリートの女性が座り込んで草餅を食べていました。「美味しそう!」と一声かけてからさらに進みます。
この女性ランナーとは最後のゴールまで抜きつ抜かれつで走りました。
ゴール後に握手すると、僕とTさんをてっきり夫婦と思っていたようです。
年の離れた夫婦ですね(笑)s
下りは登りの反対です。崖を直線で降りて行きます。地表が乾燥しているのでとても滑ります。ところどころに木があるので、スピードが出すぎるようならば木を掴まえて減速します。
僕が失敗したのはシューズです。履きなれた古いシューズを履いていったのですが底がすり減っていました。事前に点検したのですが、「まあ大丈夫だろう」と思ったのが間違いです。グリップが利かないので、5センチ刻みでステップを踏んで下り降りました。一度滑って止まらなくなり、倒木にぶつかりましたが、足で止めて事なきをえました。靴は大切ですね。(汗)
書き込みがしているので見にくいのですが、Dコースの高低図を写真にとりました。
のこぎりの歯のようなギザギザが続きます。
僕とTさんはこのコースを確実に進みます。
最初の急登の小南峠を登りきるとコーラを勧めている人がいます。
Sさんです。コーラ大瓶10本くらいを運び上げたそうです。気持ちがこもっていますね。
このあたりで一緒に来たSさんに追いつかれて抜かれます。Yさんはスタートから先行しています。ゴール後に聞いたら女子4位だったそうです。凄い!
切抜峠のチェックポイントで水を一杯もらって、天狗倉山、高城山と標高1000メートル超の山を越えていきます。Tさんは快調なようです。
スタート後16キロでようやく第一エイドの武士が峯です。ここで少しゆっくりして体調を整えます。美味しいそうめんを頂きました。トイレは基本的に無いのですが、ここで簡易トイレを借りました。
出発前にTさんとコース攻略を相談したときに目標にしたのは、天辻峠のエイドに14時に着くことです。関門は16時ですが、前日のブリーフィングでペースメーカーの方が14時45分までにここを出れば完走できると説明されていました。二人で話したのは、できれば暗くなってヘッドランプを使う前に最後のロードに出ようということでした。
武士が峯を12時20分ごろに出て、乗鞍岳を越えたあと灼熱の林道を少し走って天辻峠に14時に着きました。
ここで再びサプライズです。
Tさんが所属している「おりひめ」というチームから、わざわざ私設エイドを出すために仲間がきていました。何も知らされていなかったTさんは号泣です。Tさんの今回のミッションには、足を痛めて走れない仲間のランナーの回復祈願が含まれています。
どうやらその中の一人も応援に来てくれたようです。
Tさんは元気百倍で次に向かいます。
僕がTさんを見ていて素晴らしいなと思うのは、少しでも知っている人には必ず声をかけて励ましたり励まされたりしていることです。言葉と態度に相手を思いやる気持ちが溢れています。声を掛けられた人たちも、必ずTさんに笑顔を返します。
出屋敷峠のチェックポイントは14時29分に通過。
ここで係りの人が女性ランナーのリタイヤ連絡を受けているのを聞きます。
どうやら暑さでリタイヤするランナーが続出している雰囲気です。
「調子が良いからと飛ばしすぎると危ないな。」と考えて
「完走はできそうなので、ここからは歩きを入れましょう」とTさんに提案します。
Tさんは了解してくれました。
そのあとものこぎりの歯のようなアップダウンが続きます。
走れる道もありましたが、Tさんは何回か左足が攣りかけます。
登りで疲れた足で、そのまま下ると攣ることが多いのでピークでは少し休みます。でも休みすぎると次が動きません。バランスを取りながら進みます。
ジェルや塩分を取ります。腎臓も少し悪いらしくて塩分補給も考えながらです。下りは得意のようなので、先に行って下で待つことを繰り返します。
ここで先ほどの紀和随道のチェックポイントに到着します。16時です。
既にスタートしてから8時間が経過しています。
ここまで二人で沢山の会話をしました。半分くらいはTさんがKobo Trail完走にかける思いの話です。
故障中のランナー友達の回復祈願のほかに、実家と高野山はご縁があるようでお母さんが今回の大会参加を全面的に応援していることや、会社の社長がトレイルランをやることを心配されているのですが(Tさんは秘書なのです)、社長の息子さんにランニングの理解があり、他の皆さんにも応援してもらっているとか。
僕はTさんよりも走力でもテクニックでも優れているわけではなく、以前の約束を果たすために一緒に走っているだけだったのですが、Tさんの思いを聞いているうちに、「これは何としてもゴールまで無事に辿り着かないといけないな」という気持ちになってきました。
Tさんの気持ちに押されて前に進んだような感じですね。Tさんは僕を信頼してくれているようなので、それにこたえるために集中力が切れることもなく、スピードを上げて突っ込むこともなく完走できたのだと思います。
天狗木峠の最終エイドを終えると後は7キロの下りのロードです。
ここで暖かいイモ餅を食べて走り出します。
ところがTさんに異変です。炭酸が悪かったのか脇腹に激痛が出たようです。
ロードなので僕が先に下っていきます。時々立ち止まりますが姿が見えません。ゴールまで3キロ地点で待っていると漸く脇腹を抑えながら走ってきます。
「ここからは歩きましょう 。」
Tさんは悔しそうでしたが、そこから3キロを歩くことにしました。
完走は確実です。
「ゴール直前だけ走って二人で同時にゴールしよう。」とTさんに言って頑張ってもらいます。
大伽藍へ入る手前の商店の前で少し立ち止まるので「どうしたのかな?」と心配になってみると「髪をなおさないと・・」
まあ、これくらい余裕があれば大丈夫かな。
最後はYさんも含めた三人で並んで走ります。
ゴールには完走したYさん、おりひめメンバー、他の友人たちが出迎えてくれていました。根本中堂でお賽銭を入れてゴール。無事にTさんをお友達に引き渡して僕の役割を終了しました。
Tさんは号泣の嵐です。
思い出に残る一日でした。
Tさん、Yさん、Sさん、ほかの皆さん
本当にありがとうございました。