トレイルランニングには「~の道」というものが時々登場します。
例えば「太陽の道」は堺市の大鳥神社から伊勢神宮あたりをつなぐ道です。途中に長谷寺や室生寺などが道上にあります。
「川の道」は埼玉から新潟へ抜ける日本横断の道です。千曲川から信濃川までのステージもあるようです。
これらの「道」には歴史を含めていろいろな思いが込められています。
トレイルランナーたちはこれらの道を走ります。もちろんトップクラスのランナーですが。
「弘法大師の道」もこれらの「道」に含まれるのかもしれません。
「弘法大師の道」は若年の空海が吉野の金峯山寺から南へ一日、西へ二日を歩いて高野山を開山したという故事に基づき、高野山開山1200年事業の一環として古の道の復活を試みたものです。
復活した道は、利用されないままでおくと再び廃れてしまうので、道を残す方法としてトレイルランニング大会を開催することが選ばれました。
したがってこの道には、空海を元祖とする吉野の山伏たちの思い、高野山の僧侶たちの思い、そしてこの道をトレイルランイング大会に提供してくれたことへの
プロトレイルランナーたちの感謝の思いなど沢山の方々の思いが詰まっています。
Kobo Trailのコースディレクターは、プロトレイルランナーの横山峯弘さん、毎回のゲストランナーは同じく鏑木毅さんです。
コースディレクターの横山さんは、大会の数日前に現地入りしてコースのチェックを行うとともに、大会前日のブリーフィングでリスクを丁寧に説明して、スタートでは選手を激励して一緒に写真をとり、ゴールでは走ってきたランナーを歓迎してくれました。
Kobo Trailは空海がたどった道ですが、コースは二つあります。
一つ目は金峯山寺から高野山に至るコース(Kコース)。約55キロです。ここには最初に「大峰奥駆道」と呼ばれる道の一部があります。関西に育った人は中学生くらいで、学校行事で男子は大峰山(山上が岳)、女子は稲村が岳に登山された方がおられるでしょう。大峰奥駆道は大峰山あたりの峻険を修験者(山伏)が廻った道なのです。ここを走るランナーは白い服が基本です。修業ですからね。
もう一つのコースは、修験者の宿「洞川温泉」から高野山へ向かう道です(Dコース)。約43キロです。この道はKコースから大峰奥駆道を省いた道です。
「弘法大使の道」を走るKobo Trailは修行の道ともいわれています。
その様子を前日の行事からご案内します。
(ただしDコースのみです)
真言密教の特徴である護摩行は大会前日に龍泉寺で行われます。
今回のDコースの参加ランナーは全部で73名です。Kコースは約130名です。
護摩行は暗いお堂で火を焚いて行います。願うのは「道中安全」です。
水行は龍泉寺の池の冷水で身を清めます。
僕は護摩行と水行があると聞いて、「手の込んだセレモニーだな」と思っていました。でも実際にDコースを走ってみて、このコースを走るという緊張感を持つにはふさわしい行事かなと思っています。このコースは普通に苦しいだけではなく、気を緩めて走ると危険です。
(水行で冷えて風邪気味になった人もいるので早めに温泉に入ったほうが良いと思います。)
護摩行と水行を終わると、それぞれが旅館に帰ってお風呂と夕食をすまして就寝するだけです。
洞川温泉は参詣のための温泉宿なので山伏の姿も見えます。
川に沿った道に旅館が並ぶ街なので、昔ながらの風情もあります。初夏の風に吹かれて、少し散歩するには絶好です。
旅館で夕食を食べた後は、ランナーたちは翌日の準備を終えるとすることがありません。読書する人、散歩に出る人、テレビを見る人などです。でも中には酒盛りをする人もいます。僕たちの旅館で、翌朝の朝食に来ない人が一人いました。二日酔いだそうです。大会当日は猛暑が予想されていましたが、二日酔いだと脱水が心配です。
僕は旅館にラン友もいなかったので、午後8時前くらいから布団に入って転がっていました。すると9時ごろには僕の部屋の人はおおよそ寝床に入ったようです。眠っているかどうかは別にして、皆さん緊張して大会の開始を待ちます。